高齢社会の新しい生き方・老若協働参画社会への期待
高齢者の生きがいについて考えたこと
人類の生存を脅かすものは、餓鬼(栄養)と疾病(それに戦争)であったことは歴史が示しているが、農業を発明し餓鬼から解放され世界人口が増え、産業・エネルギー革命で工業社会・都市を実現することで現代文化を構築でき、先進諸国は人類史上最高の高齢時代を享受している。人間は、言葉・文字・道具・貨幣を発明、科学技術の発達や交通・電気通信革命などで移動の自由を得て、地球を小さくして国際時代を迎えている。
世界銀行「世界開発報告2006」によると、国の平均寿命は所得と強い相関があり、一人あたりの年間GDPが5000ドルを下回る後進国は30才台~50才台にすぎず、1万ドルを超えた先進国は70才台以上である。大人口を抱える途上国と言われるBRICS諸国等はこの中間点にあり、相関図の傾きがここで急激に鈍くなっている。また、厚生省人口動態統計によると、20世紀前半の日本人の死因の約半分は、感染症であったが後半は減少し続けて生活習慣病が過半を占めるに至っている。戦後の経済成長と科学技術(医学・公衆衛生を含む)の著しい発達で生活レベル向上が実現でき、世界トップクラスの平均寿命を享受することができたと推定される。日本は、島国で森林山岳があり名水や風光明媚な環境に恵まれていることの他、神仏習合・宗教の相違を乗り越え、「和をもって貴きとなす」を国是とした集団(平等)主義の国であり、国民皆健保制度を世界で唯一実現出来ていることなども重要要因であると思われ。しかし、現代生活を振り返って見ると、私たちの生活習慣は、戦後すっかり変わってしまい、祭りや地域での協働行事(結い・普請・無尽・講)も井戸端会議もなくなり、いろりを囲む習慣や炬燵で談笑する風景も影を潜めてしまった。通勤族が当たり前となり、核家族化が進むにつれて子供達が親の働く姿を見られなくなり世代間隔離が進み、都市化の進展で過剰な個人主義のため地域コミュニティ醸成ができず住民の孤立・疎外も進んでいる。ジャンクフードと言われるインスタント食品や既成食化・飽食生活などに加え運動不足などで体力は低下し、手づくりが軽視され安易な経済合理性が優先する習慣が定着することで、農業や自然離れも深刻さを増して精神生活も問題が増大している。伝統文化を世代を超え後世にノウハウを伝授することは長寿者に与えられた責務であると思われるが、現代の高齢者の多くは、自分の楽しみのみを追求し社会的責務から逃避した無責任化がすすみ、忘れてはいけないものを忘れてしまった現代病状況と思われ、安全ぼけで危機意識の希薄化潮流や生活習慣病蔓延時代を迎え精神文化衰退期に入っているとも懸念される。
WHO(世界保健機構)の健康定義では、心身の健康は、身体的理由の他に精神的社会的要素が強い事が示されているのに、厚労省の保健政策は、国民総病人化政策ともいえるメタボ狂騒曲とも阿諛される身体モデルでしかない国民不在の政策混迷ぶりで、世界の医学関連学会からも嘲笑を浴びている。今必要な高齢者政策は、決して胴囲を測り健診漬けにすることではなく、高齢者達の持てる有用な経験や知識を生かした総合性・先見性ある能力活用策の実現である。生きがいとは、夢を持ち困難を乗り越えながら自分の役割を果たし社会貢献、家族や仲間との楽しい交流などからソーシャルキャピタル(相互信頼社会資本)を産み出せる夢を持てるライフスタイルを創造・継続することであり、健康寿命の要諦であることの理解が進んでいない。定年後、年金で悠々自適な余生を楽しむことが理想とされた慣習は、人生60年と言われていた頃の遺物である。人生の30年弱は人の世話になる教育期間であり、働く期間が30年程度(日本独特の定年制度)で、後40年も若者が支えて生きて行く要支援期間と考えるのはいささか軽薄であり、人生100年時代を視野に置く現代には似つかわしく無いことは自明である。うつ、自殺などは21世紀になって増大し続けているのは、効率を競う競争社会でのストレス増大や自信喪失などが関係しており、会社人間として単機能に育ったため地域コミュニティ醸成・相互扶助的連携に背を向けたソーシャルキャピタル醸成能力不足も大きな理由であると思われる。
高齢者を孤立・自己に埋没させて社会から排除する慣習・制度が蔓延るのを防ぎ心豊かな地域文化貢献やまちづくりNPO活動などスキル・洞察力を駆使した生きがいを創造する社会生活モデル重視へとパラダイムシフトすべき時が来ていると思われる。「高齢者の役割創造」でコミュニティ醸成・まちづくり活動活性化、子供達への地域教育力・社会性涵養・文化伝承活動、さらには国際貢献活動など従来手薄であった分野への高齢者の役割付与の重視など制度疲労を正した世直しが必要である。高齢者こそ多様なフリーターに向いており若者の特権ではない事を実証すべきで、社会参加意欲を高める意識・制度改革を進めることを文化政策の基本に組み込む必要がある。
歴史上多くの制度改革を経て自由民主主義を謳歌できるようになった現代だが、インターネット情報革命時代を迎え、世界は前代未明の激変に見舞われようとしている。情報を握ったエスタブリッシュ支配体制の歪みが世界恐慌の潮流を生み、南北経済格差が宗教的問題と渾然一体となりながら国際問題化する一方、経済メカニズム破壊がインターネットの中で浸透しながら、市民民主主義が主導権を得る市民時代へと大転換が静かに進みつつある現実を直視すべきであろう。男女共同参画社会法の整備が一巡した次の制度命題は「老若共同参画社会の構築」であり、年齢差別を排除した新しい成熟時代を形成することを世界に先駆けて宣言、新しい制度・慣習を率先垂範すべきであると思う。
高齢者達の社会生活上の役割意識の高揚・社会貢献活動の自立を目指し、他学会との連携など専門家集団としてのシンクタンク機能を強化し、政策提言行動・立法化に向けた「行動する学会」像の確立が望まれる。NPO法人化も視野に入れ、活動資金助成などを含む総合的な全国支援制度の仕組みを構築して、高齢者達を含めた高度な知縁社会構築をめざし、ITを最大限活用した連携体制を推進、イニシアティブをとるべき時に来たと思われる。
有意ある高齢者達が萎縮せず勇気ある発言・行動をすることで安心安全な社会構築に貢献でき、人財輩出を支援・地域性豊かな文化を育てる活動に生涯を掛けるライフスタイルを確立できれば健康寿命の更なる延伸も可能となる。日本の活力再生は、自立した市民本位の「生きがい創造モデルの構築・高齢者資源の有効活用」による多様な地域文化養成・集合智結集に掛かっていると信じる。
ジェロントロジー(老年学)の発展と老若協働参画社会を夢見てーーー
シニア社会学会・老若協働参画社会・濱口研究会への投稿原稿


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